VoChiMinh’s blog

決して煌びやかではないホーチミン駐在妻の日々のつぶやき

■英語は世界共通語■

昨日から元職場の後輩がホーチミンに観光に来ている。

初の海外旅行の目的地をホーチミンに据えてくれたのだから非常に奇特な子なわけだが、残念ながらホーチミンは東京以上に観光に向いていない。

「旅行」を期待して来られても困る土地である。

 

観光2日目。

1日目は朝の5時台からホーチミンを観光したのだから、もう市内には観光スポットは残っていなかった。

ホーチミン市から車で1〜2時間走ったところにミトーというエリアがあり、

今日はそこでメコン川下りをしようというツアーに申し込んでいた。

 

ツアー会社のオフィスに朝の7:30に集合し気づいたのだが

どうやら完全に英語だけのツアーに申し込んでしまったらしい。

ちょっと失敗したかなと思いつつ、まあ黙って寝てればどうにかなるだろうと思って呑気に捉える。

 

車に乗り込むと西洋人の夫婦が明るく「Hi!」と挨拶してくれた。

なんとなく楽しくなりそうだな、と期待する。

ワゴン車が動き出すと、今日のツアーガイドLOCKIE(ロッキー)が元気に喋り出した。

まさにベトナム人が話す英語。

少し癖のある感じだが、アメリカンジョークを加えつつ非常に軽快に喋る。

私もロッキーの説明を聞き逃してはなるまいとリスニングに集中していた。

私の席は3人席の一番窓側で、前列の席の隙間を通してロッキーとバッチリ目が合う。

後輩はというと、ちょうど前列のシートに隠れてロッキーからは見えない席だった。

 

唯一のアジア人客である我々に気を使ってくれるシーンも何度かあり、

取り急ぎ不足なく楽しめていると思った時のことだった。

朝早い集合且つリスニングに神経を使ったため疲れを感じ、ロッキーの目を盗んで居眠りを始めると、ロッキーのギアがひとつ上がったのがわかった。

「みんな!寝かさないよ〜!眠いなら今からカラオケ大会をしよう!

 曲名がわかったら答えて!当てた人にはこの金のボールペンをあげよう!」

 

(寝かさない方針ってあるんだ。)

 

ところが西洋人はノリノリ。

やっぱりこうやって生きていかないと勿体無いよな、とロッキーを煙たがった自分を反省する。

 

ロッキーがハーモニカを用意し、メロディーが流れ出す。

(歌わないのか。良かった。あ、聞いたことある!タイタニックだ!曲名なんだっけ)

一曲上手に弾き終えると、ロッキーが南アフリカから来たイギリス人の大学生団体客をさして答えさせる。

「My heart will go on」

「Yhea~!Fuuuu~!」

想像以上に盛り上がっている。

私も音がならない程度の拍手をして悪目立ちしないようにする。

ふと横を見ると後輩は綺麗に熟睡していた。

彼は昨晩、宿のそばのクラブで深夜まで踊り狂い、わずかしか持ってきていなかった現金を全て使い切ってしまっていた。

今日と明日は、お小遣い制の私のお金を頼りに旅行する予定のヤツだ。

楽しむこともせず寝ている。

(クッソーーー!!!)

やるせない気持ちになる。

 

宴は次のクイズに移っていた。

今度は前列のアメリカ人中年夫婦が歌い、他の人が曲名を当てる。

周りの西洋人たちは一緒に口ずさむほどの有名曲のようだが、どうやら少々古い歌謡曲なのか、私は一切聞いたことがなかった。

これで曲名を当てさせられてもわからない。

窓の外を少し冷めた目で眺め、「わかりません」アピールをする。

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ロッキーは察したのかわからないが、私の後ろに座っていたバックパッカーの女性が曲名をあて金のボールペンをもらう。

 

そして今度はロッキーが歌いだした。

「熱唱」

という二文字がこんなにぴったりくる事はそうそうないのではないか。

音階に合わせて広げた掌を上下に動かし、ギュッと目をつむってビブラートをきかせている。

客の反応はイマイチ。西洋人が乗り切れていない。

そして私は気づいてしまったのだ。

 

(・・・日本語の曲だ・・・)

 

ロッキーの粋なはからいである。

置いてけぼりを食らっている様子のジャパニーズを見て、わざわざ日本の曲を歌ってくれたのだ。

となると回答者はまず間違いなく私たち。

いや、1人脱落者がいるので、「私」だ。

 

心拍数が上がる。

歌詞をよく聞く。何か閃くヒントはないだろうか。

(なに?長渕剛?尾崎豊?本当に一瞬も聞いた事ない。やばい。)

 

ロッキーは推定年齢40〜50代男性。

誰に習ったか知らないが、中途半端な歌謡曲である。

「ゆらゆら〜」「夕焼け空〜」などとバラードを歌い続けている。

1番で終わってくれればいいものを、間奏を挟み最後までしっかりと大熱唱を繰り広げてくれた。

さっきまで盛り上がっていた西洋人は5分近くあるバラードに飽きたのかお通夜のような雰囲気だ。

(地獄だ。)

 

そして葛藤を経た後、意を決して、

窓の外を少し冷めた目で眺めることにした。

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外の景色なんて全然入ってこない。

ただただ、当てないでくれと願いながら、存在を消すように肘をついて窓の外を眺める。

頭の中ではロッキーに英語で答える準備をする。

(『ごめんね、実はその曲知らないのよ、アッハハ〜』)

笑い飛ばせばなんとかなるかな。

申し訳ない気持ちと、英語が通じるかの不安から後輩をみる。

 

寝ている。

殺意が沸く。

 

ところが歌い終わったロッキーは察しが良かったのだろう。

西洋人と私からの賞賛の拍手を受け入れ、それ以上はこちらに構う事はしなかった。

ことなきを得た私は誓う。

(帰ったらあの曲が誰のだったか調べよう)

 

なぜか解答していない私にも金のボールペンをくれ、私も苦笑いで

「サンキュー、ユーアーグッドシンガー」

とだけ伝えた。

金のボールペンは驚くほど軽くてちゃっちかった。

 

序盤に最高の修羅場を迎えたツアーは、

その後も魅力的で盛りだくさんなコンテンツを執り行い

心地いい疲れと腹痛を伴いながら、帰路につくのだった。

もちろん1時間のカラオケ大会を挟みながら。

 

そして帰宅後調べた結果、マッチ先生だった。

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