金曜日のデート
に行ってきた。
先月までクラスメイトだったカナダ育ちの韓国人、キュビンに誘われ、2人で寿司を食べに行った。
実は先週の週末に誘われていたのだが、今の自分に2人きりで英語で話し続ける自信がなく、
なんとなく先送りにしてしまったのだ。
でもこちらからまた誘うねと言ってしまったので、すぐに誘わないのも不義理になるなと思い、旦那様の不在のこの金曜日を使うことにした。
もちろん日本人の女友達と話すように切れ目なく会話が続いた訳はないのだが、思いの外ストレスもなく楽しめた。
日本での私の会話上の「味」は一切反映できていないものの、
恋バナなんかも織り交ぜちゃったりして、
可愛らしい20歳の男の子は思いの外キャッキャと楽しんでいるようだった。
寿司を食べ、近くの公園でサイゴン川を眺めながら夕涼みをして語り、
同じエリア内のショッピングモールでアイスを食べながらブラブラする。
しまいにはそこにあったアイススケートリンクで人生初のアイススケートをする始末。
そして気付く。
あれ?
トレンディードラマのデートか?
ホーチミンにはデートスポットは存在しないと思っていたから旦那様との週末デートを諦めたのに、
これ、ものすごくデートっぽくないか??
デートと言ったらキュビンはきっと不快に思うくらい、そんなつもりはないのは当然なのだが、
こんなにテンプレのようなデートが、ホーチミンで可能だったとは。
しかも彼は、終始ジェントルだった。
寿司は全額奢ってくれるし、
頼んでもいないのに水を買ってきてくれるし、
スケートでは手をとってフォローしてくれる。
あぁ、私の旦那様にこのエッセンスが一滴でも加わってくれたら…と思わざるを得ないパーフェクトだった。
まぁ、干支が一周する年齢差なのでこんなに甘えた私が凶悪なのだが、
久しぶりに(坊やに)レディーとして扱ってもらえた訳だ。
でも、夕涼みの語らいで彼は彼の想いを語ってくれ、それがとても嬉しかった。
「僕はカナダで10年育って、日本のアニメやマンガ、ご飯が大好きだった。
だからずっと日本の友達が欲しかったのに、周りには全然日本人が居なかったんだよ。
だから君と友達になれて本当に嬉しいんだ。
君が初めての日本人の友達だよ!」
と。
この転勤が決まるまで、外の世界に興味など持ったことがなかった私が、
今は他の国はどんな世界なんだろうとよく考えるようになった。
そして文化の違う人と友達になりたいと思うようになった。
そして彼も私にとって、その最初の友達の1人だ。
私は昔から本当に人に恵まれている。
もっともっと一人ひとり大事にしていかなくてはと考え眠りにつく夜。
友達が減った気がする
1月7日でホーチミンに来て丸4ヶ月が経ったのだが、ふと気付いた。
日本人の駐妻友達と最近めっきり遊んでいない。
私が受けている授業の時間帯が、キレイに駐妻さんの遊べる時間帯とかぶってしまっているからだ。
この1ヶ月は旦那様の野球部友達と飲むか、学校の友達とランチやご飯に行くことしかしていない。
ここ最近よく考えるのだが、
今の生活の充実度は「永続性」がないことをしっかりと今から理解しておかなければならない。
学校は自分が続ける限り続くが、難易度が上がるたびクラスメイトの人数は減っていく傾向にある。
おまけに、今楽しい時間を過ごさせてくれている仲間たちは駐在員ではないため、近い将来国に帰る可能性が極めて高い。
そう考えた時、この環境に依存していてはいけないと思った。
慌てて駐妻友達との予定を取り付けるのも打算的で好ましくないのだが、
なんだかこのままでは数ヶ月後の自分が一人ぼっちになっている気がした。
ここでの生活はみんな一期一会を速いサイクルで繰り返している。
土地や風土としてはこの上なくホーチミンを愛しているが、
コミュニティーとして心が落ち着くのはいつになるのか。
たゆまぬ努力が必要なのだろうか。
これは訓練ではない、実戦である。パート2
今日は旦那様が会社の忘年会で帰ってこない。
旧正月は1月25日なので、それまでの期間、こちらは「忘年会」の時期である。
昨日ソンホに誘われたので、今日はベトナム人のお誕生日パーティーに参加してきた。
前述の通りソンホの彼女はベトナム人なので、彼女のベトナム人の友達4人と、こちらの多国籍クラスメンバーで計11人のBBQをした。
先月からの経験上、言葉が通じるかどうかはさして問題ではなく、人懐こさや明るさが重要だとわかっていたので、
「せっかくだから」という気軽な気持ちで参加してみることにした。
お察しの通り、その考えは大正解であった。
グーリッ君という男性の28歳の誕生日であったわけだが、彼は感動的な人柄だった。
臆せず私に話しかけてくれ、一問一答も全然ままならない私にも、恐ろしいほどゆっくりと、単語に分けて話してくれた。
それでもわからない私が100%勉強不足なのだが、ずっと笑顔で説明してくれる。
首にある大きめのホクロから10センチくらいの毛が生えていることがチラチラと目に止まってしまう私とは、対照的な人格者だった。
(バイクの運転手さんたちと少し会話して、出来る気になっていたのが恥ずかしいな。)
そんな思いにかられている私を横目に、韓国の東大生スー君はめちゃくちゃ会話できている。
流暢であるし、ボキャブラリーも半端じゃない。
これがベトナム語での会話というものだ。
私のそれは、老人ホームにおいて97歳のおばあちゃんに話しかけている介護スタッフのそれだ。
不要な説明かとは思うが念のため、もちろん私が97歳の老婆である。
スー君はホーチミンに来る直前まで兵役していた。
除隊前に、寮の中でYouTubeを見てベトナム語を1ヶ月勉強し、
この学校に入って1ヶ月ちょっとである。
つまり2ヶ月少々でこのレベルである。
私の倍以上、その場を楽しんでいた。
私は帰りのバイクにまたがり、涼しい夜風を受けながら真剣に考える。
彼と私の差分はなにか。
もちろん、彼はこの学校で8時間×週5日ベトナム語を勉強しているわけなので、その差はあるのは致し方ない。
おまけに日本の東大にも行けていない私とは頭脳のキャパシティーも違うかも知れない。
ただ、絶対にそれ以外の要素があるし、真似できるものがあるはずだ。
結果、要素は2つだと考える。
1つは、ボキャブラリーだ。
しかも、文字ではなく音で覚えたボキャブラリーの多さだ。
実際今日も、知っている単語だったのに、ちょっとした個々人の発音の癖によって聞き取れなかったものも多かった。
音として熟知できている状態のボキャブラリーが多ければ多いほど、あとは何とかなる。
これはきっと英語も同じだろう。
2つ目は瞬発力だ。
97歳の老婆は、授業で習った文章さえ、恐ろしいほどゆっくりと話していた。
脳ミソの引き出しをすぐに開けられないのだ。
これは英語でも同様に感じるのだが、この「ゆっくり」というテンポは非常にシラける。
グーリッ君は敏腕介護スタッフな訳なのでずっと笑顔で待ってくれているが、まぁ、このままでは友達として認めてもらえるには相当な時間を要するだろう。
このテンポを上げるには口を慣らす以外に手段はない。
そこで私は考えた。
ボキャブラリーは、単語帳のCDとインスタグラムで。
瞬発力は、ベトナムの映画や歌のシャドーイングで鍛えよう。
「インプットしたらアウトプットしないと覚えない」
と言うのは至極一般的な理論であるが、今までノートに書き出すことをアウトプットと呼んでいた私は間違っていた。
最終目的は何か?
会話である。
とにかく口から吐き出す。(なんか言葉が汚い)
そして早めにボキャブラリーを増やし、口から吐き出した言葉たちが正しく理解できるレベルのものかどうかを確かめてくれるベトナム人の友達を作ろうと思う。
「たったの半年勉強しただけで、もうそんなに喋れるの?!」
いつか言われてみたいもんだ。
ベトナムの年末年始
日本のクリスマスから正月にかけての雰囲気がたまらなく好きだ。
特にたまらなく好きなのが、年末に流れる川崎大師のCMだ。
ベトナムにももちろんクリスマスも年末もイベントはあるのだが、汗をかく暑さなのでムードもへったくれもない。
ベトナムは1月末に旧正月を祝うスタイルの国なので、
1月1日の0時に花火が上がる以外は、特段煌びやかなムードもない。
これほどまでに正月を迎えることに頓着しなかったのは、新卒で入った会社以来である。
販売業だったため年末年始はまさに掻き入れどきで、クリスマスは彼女のいなそうな大学生のボーイたちに付け入り、また年末年始はパートタイマーのおばちゃんたちにもしつこく懇願して、出勤を依頼していたのも良い思い出だ。
ところで、今日から新しいクラスになった。
前回のクラスから1段階レベルが上がるのだが、11人いたクラスメイトのなかでも特に優秀な人達は更にもう1ランク上のクラスに行ったため、
私と、ヨンホと、ソンホの3人だけ同じクラスになる。
ただしクラスの必要最低人員は5人と決まっているので、ニューカマーが少なくとも2人以上いるわけだ。
新しいクラスは5人だった。
ギリギリじゃないか。
1人はこれまた韓国人のウックくん。25歳男性。英語はネイティブなみ。
もう1人はカナダ人の白髪混じりのジェントルマン、ダンカンさん。
今回は気持ち的に余裕があったこともあり、ウックくんにもダンカンさんにも私から話しかけてみた。
昔からの癖なのだが、一つの空間の中に盛り上がってる場所と無言の場所が二つ存在するのが苦手で、どちらか一方に絞りたくなってしまう。
今回はヨンホとソンホがよく喋るので、たまらず2人も加えたくなった。
ウックくんは父親がベトナムで工場を経営しており、もうすでにこちらに4年住んでいる。
今日一日見た感じ、さすがベトナム語の発音もキレイである。
ベトナムに来る前にすでに英語を猛勉強しており、そのことについてゴニョゴニョ説明してくれたが、リスニングが追いつかなかったのでこちら側の都合により紹介は割愛する。
ダンカンさんはこちらでベトナム人相手に英語の先生をしているらしい。
小さい子を対象とすることがメインらしいが、もう3年以上こちらで働いていると言う。
そして彼は、私がもつ欧米圏の人々のイメージを覆すくらい、日本人的な腰の低さを持つおじさんだった。
まず愛想笑いがとても多い。
理解していようとしていなかろうと、ハハ、と力なく笑う。
そしてsorryと謝る頻度も、英語がとても不得意な日本人から発されるsorryの回数と同じくらい多い。
でもこの要素は決してマイナスの意味ではなく、穏やかで優しそうで、彼の誰からも好かれそうな雰囲気を形成していると思う。
ちなみにヨンホとソンホは誰?
と思われる方に簡単に説明しよう。
ヨンホは私が先月の一番初めに仲良くなった日本語ペラペラの韓国人。35歳男性。
ソンホは彼女が(韓国語ペラペラな)ベトナム人で、おそらくこっちで結婚するつもりの34歳男性。ちなみに無職だ。
ソンホは英語もベトナム語も同じくらい話せないけれど、とにかく明るくムードメーカーなので皆んなに愛されている。
海外で楽しめる人間とはこういう人だなと尊敬の念を持っているのも事実だ。
今日はダンカンさんの圧倒的な劣等生度合いが目立ったが、仕事をしながらのベトナム語勉強なので多少の恩赦を与えるべきだろうか。
どうか明日までにしっかりと復習してくれることを願う。
このメンバーでどんな1ヶ月になるか楽しみである。
日々の備忘録を続けていこうと思う。
こんな日が来るなんて
思ってもいなかった。
日本で暮らしていた頃は。
今日は金曜日。
来週は年末年始を挟むので、あと2回しか授業がない。
おまけに最終日は試験で終了するので、実質本日が最後のような雰囲気だった。
来月はそれぞれのクラスメイトが散り散りになる事はわかっているため、別れを惜しむ雰囲気がある。
先週のうちから今日はみんなで飲みに行こう!と決めていたので、
旦那様を会社の飲み会に行くように誘導して、私も花金の参加資格をゲットする。
今日はベトナム人に人気の鍋屋を一次会の会場としたが、実に不思議な味の鍋だった。
まず鍋にバターを引き、そのあとすぐに甘酸っぱいドロっとしたスープを入れる。
そこから豚肉や野菜を入れて煮込んでいくもの。
付け合わせに白米はなく、バインミー でお馴染みのフランスパンがお供となる。
ホーチミンは昔フランス領であったため、ベトナムとフランスの食文化が融合して生まれたものらしい。
おそらく日本人男性はあまり好まなそうな味付けだったが、
私は好みの味だったので沢山頂いた。
実は私はその一次会の後に帰るつもりでいたのだが、
カナダ育ちの韓国坊やがカラオケに行くまで帰さないよ!と引き止めてくれたので
「じゃぁ1時間だけ」
と乗っかってみることにした。
今までの人生で、日本語が一切通じない環境下で食事をすることもなかった私が、
韓国人と台湾人とのカラオケでどんな歌を歌えば良いんだろう?
しかしその心配は無用だった。
韓国の「東大」に通うスー君が、私に気を利かせてBIGBANGの歌を入れてくれる。
他にも、こちらでも氣志團がブレイクさせた歌やカンナムスタイルなど、
おそらくだいぶこちらに気を使ってくれてるのだろうが、韓国の若者たちも大はしゃぎで歌っており終始楽しめた。
そしてそこに居た韓国人の男性は押し並べて惚れ惚れする歌唱力だった。
結婚していなかったら、食事も喉を通らないほどの恋に(一方的に)落ちていたかもしれない。
途中、あなたも歌って!と一曲勧められたのだが、ここはベトナムのカラオケ。
もちろん日本の曲が入っているわけもない。
YouTubeの中の、正規品ではない動画の中から選ぶことになった。
普段歌わない、嵐の「one love」なんて入れてしまったのだが、始まってみて驚いた。
既に誰かが歌ってる声が入っているのだ。
まぁまぁ下手な素人が歌ってみた、という動画を選択してしまったらしい。
そのまぁまぁ下手な素人の彼と一緒にデュエットするスタイルになったのだが、
もはや誰が歌ってるのかも分からないし、韓国人もこの歌は全然知らないようだ。
もう今日は歌うのはやめようと決意した瞬間だった。
韓国人のみんなからしたら、このメンバーの大多数が韓国人なので何気ない日常の延長なのかもしれないが、
マイノリティーの日本人としては、こんなに素敵な出会いが日本の外に待っていたことに感謝してもしきれない。
今日は結局最後までみんなと踊り、カナダ育ちの韓国坊やとハグをして別れた。
来月にはなかなか会えなくなる人も多いのがとても寂しい。
来月また素敵な出会いがあることを願っている。
再会
旦那様の会社の元同期の友人であり、
私がベトナムに住む直前まで働いていた会社の同僚になった男性がいる。
つまり、彼は新卒で旦那様の会社に入社し、転職を経て私の職場の同僚になったわけだ。
夫婦共々同じ職場で働くというのはなかなか奇跡的なので、非常に親近感が湧いていた彼。
職場で話したことは2回ほどしかないのだが、
今日は奥さんと一緒にホーチミンに旅行に来たらしく一緒にご飯を食べることになった。
彼は会社でも全社で表彰されたりと敏腕であるらしく、私の旦那様と同い年とは思えない達観した雰囲気が漂う。
奥さんもバリキャリかつ可愛くて喋りやすいという鬼に金棒だ。
こうやって色んな夫婦とご一緒する機会が増えるほど、女性の役割というものの重要性を良く感じるようになる。
会話の運び方や、さりげないフォローの仕方。
明るさや、華のあるなし。
これだけで夫婦としての見え方や、評判も変わってくるのだなぁと改めて考えさせられる。
自分はどれをとってもいまひとつであることは自覚しているので、
とりあえずその場が笑いに溢れるよう努めることだけは心がけている。
今日は先方の奥さんのコミュニケーション能力がとても高いこともあって非常に楽しい会になったのだが、
ひとつ気づいたことがある。
途中から旦那様のスイッチが切れたということだ。
私の旦那様はもともとお喋りな方ではない。
舌ったらずだがいつもニコニコしているので、あまり喋れなくてもみんなが可愛がってくれるタイプの人間だ。
彼が会話の主導権を握ることはほぼないのだが、そのくせして会話のフィールドからフェイドアウトする時がある。
本日もこの特殊能力を発揮してくれた。
私はそれに気づくと、会話の主語を旦那様にして逃すまいと引き込むのだが、
完全にスイッチが切れた状態に入ると驚くほどキレのない返答になる。
なぜだ?
彼はあなたに会うためにわざわざホーチミンに来てくれたというのに?
どんな気持ちでスイッチを切るのか?
怒りではなく、恐怖に近い気持ちで旦那様を見つめ、見切りをつけた。
そういえば、義理のお母さんも、お義父さんについて同じような愚痴をこぼしていたなと思い出す。
親子の血は争えない。
世の中の男性はこういう人も多いのだろうか。
そして会の締めくくりに写真を撮ったのだが、ここでも旋律が走る。
怖いぐらい私と旦那様の顔が似ているのだ。
これは結婚式を挙げる前後からずっと巷でささやかれていた事ではあるのだが、
ひょっとしたらホーチミンに来てからまた似て来てしまっているかもしれない。
私と旦那様が手前で、友達夫婦が奥。
どうしても二重顎になりやすい角度だが、こんなに二重顎の段数まで揃うものなのか?
口角のぎこちない上がり方までそっくりである。
それが昨今の悩みである。
特段これといったオチはないのだが、そんな平和な1日であった。
Chúc giáng sinh vui vẻ
ベトナム語でメリークリスマスという意味。
ホーチミンのクリスマスは昼間には33℃あるので、
いつもどおりキンキンに冷えたカフェで長時間過ごさないと長袖を着ることはない。
でも街中はクリスマスムードで、ショッピングモール内は温かい幸せな配色で包まれている。
どういうわけか学校も24日と25日はお休みで、暇になった学生たちは各々の時間を過ごすようだ。
我が家のささやかなクリスマスパーティーは昨日だったので、昨日は朝からスーパーをはしごした。
この日はデリバリーも良く出るようで、grabバイクのドライバー達はみんなデリバリー用の保冷バッグを持っていた。
私の住む場所からいつも使っているスーパーまではかなり遠い。
おじさんとのランデブーが長くなる。
イブの早朝ランデブーのお相手は渋みのある落ち着いたおじさんで、
「どこから来たの?」「日本のどこ出身なの?」
とベトナム語で会話をしてくれた。
不思議なもので1ヶ月ほどベトナム語を勉強すると、相手が何を言ってるのか少しずつ推測ができるようになってくる。
そして渋いおじさんは、私を乗せたまま
「まだ朝ごはんを食べていないんだけど、一緒に食べない?」
と誘ってきたのだ。
聞き間違いだったら大恥をかくので、念入りにおじさんの言ったであろう単語を動作をつけて復唱し、間違ってないか確認する。
どうやら間違ってはいないようだ。
とりあえず、これがナンパには値しないのはわかっていた。
確かにベトナムの女の子は化粧をしない子が多いので、化粧をしているだけで美人扱いしてくれる国であることに間違いはない。
しかし、おじさんは私を女性として誘ってる感じはなく、
ベトナム語を一生懸命喋る娘として愛着を持ってくれた様子だった。
私はベトナム人の友達が欲しいのでその誘いに乗っかりたい気持ちがあったが、
とにかく今日はお菓子とご馳走を作って部屋も掃除して飾り付けしなければならない。
そして教科書の中にあった習ったばかりの言葉が口をついて出てくる。
「時間がありません。」
会話はそこで終了。
ちょうどよく目的地にも着いてしまった。
今思い返しても、もう少しマシな言い方があったのだろうが
今はまだニュアンスを伝えるようなテクニックを持ち合わせていない。
「ごめんね、ありがとう」
とだけ言葉を添えてお別れする。
なんだが渋い気持ちで買い物に向かうはめになったのだが、
一方で、自己紹介だけではない会話が初めてできたことに感動する。
こちらで働くビジネスマン達はよく言っていたが、
やはり英語がどんなに流暢でも、ベトナム語で会話する方が手っ取り早く信頼を買えるそうだ。
今ならそれが良くわかる。
私が生活圏内で接するおじさんは、ベトナム語を勉強してるんだと伝えるだけで色々好意的に接してくれ、
サービスも良くなる傾向にある。
英語とベトナム語の勉強の両立はそこそこハードだし、
来月このクラスを継続するメンバーは私を含めて3人にまで減ってしまったが、
めげずに続けた先にもっと楽しいホーチミン生活が待っている気がした。
二つの成立
初めて会話が成立した。
本日のグラブバイクのドライバーは、50歳くらいの底抜けに明るいおっちゃん。
おじさんドライバーにしては珍しく英語が話せ、私を旅行客だと思って色々英語で質問してきた。
私は覚えたてのベトナム語で必死に答える。
「ワタシハニホンジンダ ココニスンデイル リョコウデハナイ」
「ワタシハベトナムゴヲナラッテイル ダイガクニムカッテホシイ チョットダケベトナムゴヲハナセル」
「ケッコンシテイル サンジュウニサイニナル」
彼は、英語を喋りたい。
私は、ベトナム語を喋りたい。
だから彼が英語で、私がベトナム語で話すという今までと逆パターンの会話が成立していく。
しかし身振り手振りを使わずとも、彼の英語の反応にズレはなかったことから、どうやら私のベトナム語はきちんと通じているようだ。
感動である。
そんな今日、私は同じクラスの男女がカップル成立しかけていることに気がついた。
ジャーニーと、韓国人の高身長イケメンボーイだ。
明るい人柄で、英語もペラペラのジンくん。
ジャーニーは韓国ドラマの大長今の主人公にそっくりな色白清純派の可愛い子。
失礼かもしれないが、授業が始まったばかりの頃のジャーニーちゃんは化粧もせず服にも頓着がなさそうだった。
だが最近の彼女は違う。
しっかりとアイラインを引き、可愛らしいワンピースばかり着てくる。
何気なくそれを褒めたりする日が続いていたのだが、
今日ジャーニーとジンくんと私で一緒にエレベーターに乗り別れる際、2人だけ出口とは別の方向へ向かっていったのだ。
ジャーニーはこの後18時から予定があるのだと言っていたが、それまでを彼と過ごすのだろうかと考えていた瞬間、
「あ。そういうことか。」
閃きが走った。
彼女が可愛くなった理由の辻褄があったのだ。
私は恋愛沙汰の「予感」には少し自信がある。
いい、良いぞ。若者よ。
ジャーニーちゃんは28歳、ジンくんは29歳。
素敵な出会いである。
是非近いうちに女子3人で恋バナご飯会でもしたいものである。
そういう楽しみがまだ残っている若い時間の「価値」を、今ならハッキリと理解することができると思った夕方であった。
チアおじさん
土曜日の夕方。
私は駐在妻の方から「お友達になりましょう」とお誘いを受けて一緒にローカルご飯を食べ、
別れてからスーパーで来週分の食材をまとめ買いして帰宅した。
旦那様も半日の仕事を終え既に家に戻っていたようで、おかえりと出迎える。
その日彼は、翌日日曜日に控える野球部総会の出し物の練習をしに行く予定があった。
とは言え、我が家のマンション群の敷地内を練習場にすることに成功したらしく、
意外にも小一時間程で練習を終えて帰宅してきた。
演目はチアダンス。
なんでまたこの時代にそんな古めかしいネタをやるんだと聞くと、
こちらでチアダンスの先生をやっている女性が部員におり、その方に考えてもらうのが一番手っ取り早いのだと言うことだった。
男性3人、女性2人の計5人から構成される有志の宴会芸。
野球部同士で最近結婚されたご夫婦へのお祝いの舞の位置付けだそうだ。
練習から帰ってからすぐに、先生からみんなの練習リハーサルの動画が送られてきたらしく、
自分たちの締まりのないダンスに旦那様自体が吹き出していた。
「アドバイスが欲しい」
と言う依頼を受けたので、私が先生の見本動画を見て、旦那様のダンスを見比べることになった。
曲は、みなさんご存知のゴリエのミッキーである。
平成生まれの読者様の中にはご存知ない方もいらっしゃるかもしれないので、念の為本物を載せておく。
もちろんであるが、上記のゴリエを踊るのには準備期間が短か過ぎるため
先生が初心者向けに非常に簡単なダンスに変更してくれているのでご安心いただきたい。
先生の見本動画を見る限り曲も上手く編集してあり、イントロの後にすぐにサビに入る形で、簡潔で小気味良い。
私が先生の動画の再生ボタンを押すと、短いイントロが流れ出す。
テレビの前で踊る準備をする旦那様。
目をつむり肩と体でリズムを身体に取り入れ、軽く「ゾーン」に入り出す。
私はそれを見て、完全にダンスのセンスがない奴の動き方だと判断する。
踊りが始まる。
彼はフリは完璧に頭に入っていたので、まずまず先生と同じ動きはできていた。
ただもともと、リュックも必死にしがみついているように見える程の極端なナデ肩であること、
そして、膝と膝の間から赤ちゃんが通り抜けられる程の極端なガニ股であることが功を奏して
チアに必要なキレと可愛らしさが消滅していた。
「肘にもっとしっかり力入れてピン!!手は腰骨よりちょっと上に置く!!」
「肩が内側入ってるよ!!」
「膝くっつけて!!かかとはもっとお尻に向かって勢いよくハネあげる!!」
熱血コーチ風にヤジ、いやアドバイスを飛ばす。
私自身、ダンスの経験はないが、ダンス動画やダンスのテレビを観るのは昔から大好きだったので、こう言う場合にどこがポイントになるかは心得ているつもりである。
彼の動きは徐々に改善され、ワキの毛以外は特段気にならなくなった。
肝心な衣装の用意はできているのか?と質問すると
コンビニの袋の中を指しながら、他のメンバーの女性が調達してきてくれたと言った。
袋をチラッと覗いてみると、いかにもチアっぽい赤白紺のトリコロールカラーの衣装が小さく丸まって入っていた。
「脇毛、剃って行ったら?」
「片方だけ剃っていくの、どう思う?」
そんな会話をしながら夜が明けた。
日曜日の今日。
珍しく野球の練習がなかった旦那様とブランチデートを終え帰宅。
満腹による睡魔で2人とも昼寝をしていた。
15時を周った頃だろうか、
「シッシッシッシ!クックックッ!」
と言う奇妙な笑い声が聞こえた気がして目を覚ました。
そこにはペラッペラのトリコロールカラーのワンピースを着たおじさんが立っていた。
「え?」
意図せず声が出る。
想像していた完成図と違う。
これはチアではない。
ただただ趣味の悪い女装をしたおじさんである。
「衣装、チアのユニフォームじゃなかったの?」
「チアの服は流石に売ってなかったから、普通のワンピース買ったらしい。
だから終わったらこれあげるわ。」
丁重にお断りをしてから、あまりに気色が悪いので一気に目が冴えてしまった私は、
口元を歪めつつ最後のリハーサルの打診をする。
1回だけ音楽に合わせて踊りを披露する女装おじさん。
一部だけしっかり本物のゴリエダンスを模して決めポーズをするところがあり
やはりそこでワキが全開になる。
キツい。
少なくとも私は、食欲がなくなっていくのを感じた。
(これ、ウケなかったら地獄だな。彼も。みんなも。)
そんなことを思いながら見送った日曜日の夕方。
彼が満足気な顔で帰ってくることを願っていてほしい。
去る者
今週の火曜日から突然キャラちゃんが来なくなった。
最初は体調不良とのことだったので私もジャーニーも心配していたのだが、
途中から連絡も途絶えたことを鑑みるともう来ない可能性が高いなと踏んでいる。
悲しいが、意外な脱落者だ。
実は私の受けている授業は短期タームで区切られており、4時間のコースは1ヶ月ごと、2時間のコースは2ヶ月ごとに更新の有無を問われる。
無論今やめたら一番の無駄金になるので辞める人は少ないのだが、
残念なことに仲良くなったジャーニーも来月は更新しないと言う。
彼女は当初から長くベトナムにいる予定はなかったし、なによりも英語をもっと勉強したいそうだ。
幸い今のクラスにはネイティブスピーカーが3人いるので、無料で英会話の授業も受けられている訳だが、彼女にとってはベトナム語の授業が難しく退屈であるとのことだった。
もちろんその他の男性陣とも食堂でランチをしたり楽しく過ごせてはいるが、同性が居なくなるのはやはり人間の心理として寂しいものである。
ところで、今週からニューカマーが現れた。
韓国人の現役大学生の男の子で、聞くところによると韓国でも超有名難関大学に通っているらしい。
ニュースでもよく目にする韓国の大学戦争に勝利した強者なだけに、彼はすごい。
1日8時間、ベトナム語の授業を受けているのだ。
私たちが来月受ける予定のクラスを並行して習っているらしく、もはや先生とベトナム語で会話しだしている。
単語の習熟度も非常に高く、心なしか彼が来てから授業で自分が置いてけぼりをくらいかけるタイミングが増えていて大変である。
土日も復習漬けにしないとオバサンはもうついていけなくなってしまいそうだ。
ただ、私が彼に注目している理由はそれだけではない。
眉毛を描いているのだ。
韓国の男性アイドルグループが目元に化粧をするのが主流なのは存じ上げているが、
彼は一般人でそれを行なわれていらっしゃる。
一般男性で化粧を施している人間を初めて見た。
それに気付いてからは、彼と話すたび眉毛を見てしまう。
もう眉毛と喋っている。
きっと彼に気づかれてしまう。
でも見てしまう。
(あ、今日はちょっと右眉調子悪いな)
とか思ってしまう。
ちびまるこちゃんのハマジ似の彼の眉毛について、いつか話題にしてみてもいいものか、絶対にやめておいたほうがいいものか、迷っている。
まぁ大人として、多感な時期の若者には後者を選択すべきなのであろうが…
彼から眉毛について触れてくる日が訪れた暁には、その理由を共有したいと思う。